記憶の珍味
制作年: 2020
素材・技法: ミクストメディア
サイズ: 可変
エディション: 1点物、ユニーク
サイン:未設定

About the Work
- 制作年
- 2020
- 素材・技法
- ミクストメディア
- サイズ
- 可変
- エディション
- 1点物、ユニーク
- サイン
- 未設定
- クレジット
- 写真:宮原夢画 Courtesy of Shiseido Gallery
- 額装
- なし
- 作品証明書
- 未設定
- カテゴリー
- インスタレーション
- スタイル
- エネルギッシュ, プリミティヴィズム
Work Details
「記憶の珍味」を資生堂ギャラリーで発表して1ヶ月が経った頃、世界は強制的に止まってしまった。ステイホーム、家に籠り、最低限の外気を吸うのみ。人と会わず、得体の知れない恐怖と増えていく数字を毎日数えていた。2020年2月29日、うるう年のこの日を最後に資生堂ギャラリーは臨時休館となった。
3月になると私は森の中にいた。標高700m、コンビニもスーパーもない山奥でニュースを見ていた。森の中で聞こえてくるパンデミックの混乱は、鳥や虫や動物たちの鳴き声に掻き消されてどこか他人事のようだった。食べられるかもしれないものに満ちたこの森で、食べられてしまう危険とともに、東京での生活で鈍ってしまった私の野生を試してみたいと思った。
森の間伐材でタリスマンをつくる。森に充満するフィトンチッドを集める。フィトンチッドは樹木が発する魔法のような気。動くことができない木々が、外部の刺激から自分自身を守るために揮発させる、殺菌力を持った防御成分であり、森を浄化する力。わたしたち人間もそのおすそわけをもらって、抗菌、抗酸化、リラックス… 免疫力をあげることができる。森はそんな野生の気が満ちていて、そのみずみずしい気を集めては、しばらく会えていない友人たちへ、私は森から'魔除け'を送り続けた。
あれから半年ものあいだ、誰もいなくなった銀座の、あの地下空間で「記憶の珍味」はあじわう人を待っていた。それはまさに、忘れ去られて人知れず熟成していく、脳の奥底の「珍味」のようだった。私自身も忘れかけていた。世界があまりにもドラマティックで、その変容を受け止めたかった。なによりも生きものとして進化したかった。
もう、だれかと内的な感覚を共有したり、どこかの美しい密室に入ったり、なにか得体の知れないものを手掴みで食べる、ということはできない世界になってしまったのだろうか。
濃厚接触が禁じられた世界で、想像力ばかりが濃厚に掻きたてられる。おかげでわたしたちは、今までにないほどに想像力を手に入れて、あらゆるものをあじわうことができるようになった。
8月、人が戻ってきた銀座で、蒸れたマスクの内側に森が広がっていく。脳に宿る森が、咳をするたびに溢れ出る。わたしたちの奥底に沈めていた自然をあじわうなら今。
自然との関係性において、人間の側が、自然に合わせて変容する進化というのもあり得たのではないだろうか。
いつの日か最後の晩餐には「記憶の珍味」をあじわいたい。
それは、意識であり、無意識であり、わたしそのもの。
あじわうほどにあじわい深く、噛みしめるほどにうまみを増す。
美しい記憶の珍味は、あなたの中にある。
諏訪綾子
Exhibition Information
- 過去の展示
- 諏訪綾子「記憶の珍味」Taste of Reminiscence Delicacies from Nature2020.08.25 - 09.26

























記憶を美しい珍味として、嗅いだり、舐めたり、咀嚼したり、飲み込んだりしながら、わたし自身をあじわう体験を。