変身物語 METAMORPHOSES

制作年: 2020

サイズ: -

エディション: 1点物、ユニーク

サイン:未設定

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変身物語 METAMORPHOSES

About the Work

制作年
2020
サイズ
-
エディション
1点物、ユニーク
サイン
未設定
額装
なし
作品証明書
未設定
カテゴリー
プロジェクト
スタイル
エモーショナル

Work Details

5年間の闘病の末2015年に亡くなった愛犬の遺骨は、火葬の後に納骨せず、未だ実家の居間に置いてある。火葬の時、家族と触れたあの小さく美しい遺骨をもう一度見たいが、骨壷の中には辛くも幸せだったあの時間の空気が詰まっているようで、その蓋を開けることはできなかった。開けてしまえば、あの時間を失って二度と戻れないだろう。

私は2018年のある日、骨壷が入った骨箱ごとCTスキャンを撮ることにした。 スキャンデータを元に遺骨の3Dデータを作成し、3Dプリンタで出力する。出力した樹脂製の遺骨を型取りし、様々な素材に変身させる。例えば硝子に、例えば陶磁に。その記憶も何もかも、死を境に失うものばかりだった死者に纏わる一切が、これを機に増幅していく。様々な素材に触れ美しさをそのままに変容する姿を見て、私は私自身の変化も受容できるように思えた。

現代の葬制は死を日常生活から遠ざけ、やがて死者は社会に実在しなくなった。重い墓石のなか、骨壺のなかに覆い隠された死者を、私の葬法で繰り返し変身させ、私は死者を失わない。その変身の過程を見せる物語である。

ー平野真美

平野真美の作品は、いつも死と向き合い、それに抗うことで、我々が今をいかに生きるのかを指し示してきた。

犬種特有の脳炎に罹り、死に近づいていく寝たきりの愛犬を、限りなく正確に保存しようとした代表作「保存と再現」(2014)は、骨から筋肉や皮膚までを樹脂やシリコンで精巧に模倣し、撫でた時の感触や呼吸、体温すら再現した作品だった。生活のほとんどを捧げるかのような時間をかけ、緻密な作業を積み重ねてできた愛犬の複製には、切実な「蘇生」への願いが脅迫的なまでに込められていた。平野が大好きな飼い犬を「彼女」という人間と同格の3人称で語り、家族だと言い切るという意味でも、この作品には、人間に使役される家畜や慰み物としてのペットとはまったく違う関係性が立ち現れていたと言えるだろう。

「保存と再現」が死にゆく他者を現世になんとか留めようとする蘇生の儀式であったとするなら、今回の個展「変身物語」は、その続編として、愛するものの死をいかに失わずにいられるのかが模索されている。本作において平野は、愛犬の遺骨を3Dスキャンし、古代メソポタミアで使われていたガラス鋳造法「パートドヴェール」によって、死者にまつわる物質と記憶を、美しいものとして増殖させようとする。

現代が「死」を必要以上に忌み嫌い、かつてもっていた死者との親密な交流を喪失していることを、かつてフランスの歴史学者のフィリップ・アリエスは「タブー視された死」と呼んだ。今や「死」は、生きやすく幸福で便利で効率的な生活を阻むものとして、郊外の墓地など人目のつかない場所に隔離され、古代において神格化された動物でさえ、その死は、人間の死よりも卑賤なものへと変わった。しかし、平野は、新作において、死を忌むべきものや穢らわしいものではなく、親しいものとして取り戻そうとする。死と生が継ぎ目なく循環する自然界に「死」は本来存在せず、「死」は人間が歴史的につくり上げてきた概念に過ぎないという意味では、平野は本作を通して、現代にふさわしい「死」を再発明するよう私たちに促すだろう。

それは、理性や利害では理解できない死んだ動物との関係性を、資本主義や科学主義によって非合理なものがなくなった現代の都市生活の中にもう一度持ち込もうとする試みとも言える。平野が前作と本作によって紡ぐ物語は、奇しくも、遺伝的疾患が出やすい犬種そのものが、「犬」という生きた商品を売るために品種改良で作出されてきた歴史と、獣医療やペットフードといった伴侶種の「生きる権利」が資本主義の中で獲得されてきた歴史を暗示する。そしてそれは、私たちが人間以外の生きるものに対して、どのような敬意を払えるのかを問いかけるものになるだろう。

ー高橋洋介(金沢21世紀美術館キュレーター)

Exhibition Information

Artist

平野 真美
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平野 真美

アーティスト

1989年 岐阜県生まれ
2014年 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程先端藝術表現専攻修了

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亡くなった愛犬や幼少の頃のパートナーなど、「もういないもの」としての非実在生物の生体構築、生命の保存あるいは蘇生に関する作品制作を行う。 近年制作を継続している『蘇生するユニコーン』は、非実在の生物であるユニコーンを制作によって実在させ蘇生する試みであり、その過程を段階的に発表・アーカイブ化する個人のプロジェクトである。ユニコーンもまた私が失ったものの象徴であり、その骨格・内臓・筋肉・皮膚と制作し、制作した肺に空気を、心臓に血液を送り蘇生を目指す。

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最終更新日
2021.01.22