君(あるいは恣意的に作り出された幻想について)
制作年: 2025
素材・技法: ミクストメディア, 油彩, アクリル, キャンバス
サイズ: 27.3 × 22 cm
エディション: 1点物、ユニーク
サイン:あり

About the Work
- 制作年
- 2025
- 素材・技法
- ミクストメディア, 油彩, アクリル, キャンバス
- サイズ
- 27.3 × 22 cm
- エディション
- 1点物、ユニーク
- サイン
- あり
- 額装
- なし
- 作品証明書
- あり
- 作品の販売元
- 川島桃香
- 発送元地域
- 広島県
- 発送までの日数
- 4~7日
- カテゴリー
- ミクストメディア
Work Details
過去描いた絵の上にペンキを塗り、絵画としての存在はどこまで剥奪されるのかを試みた《untitled(剥奪された風景)》の上に、防犯シートを張り、かつて描かれていた風景を再解釈しながら描画した。
《untitled(剥奪された風景)》は、キャンバスの上からペンキを塗布することで、逆にマチエールは強調され、ペンキを弾いた部分からは色が垣間見えるために、絵画という物質は完全に剥奪されることはなかった。それどころか、全く新しい絵画として立ち現れたように思う。
untitled(剥奪された風景)
ntitled(剥奪されたーー)》シリーズは、今もなおアトリエに複数眠っている。それだけでは、生まれ直したはずの絵画は、本格的に死に向かう。そう直感し、《untitled(剥奪されたーー)》を再解釈、再構築することに試みることにした。本作もこの試みの一部である。
《untitled(剥奪された風景)》は、かつて私の手によって白い画布は汚され、絵画として存在させられたかと思えば、ペンキを被せられ、傍若無人に扱われてきた。一度支持体に絵の具を乗せたのならば、もう2度と元の姿に戻ることはない。ペンキを被せられたこの絵から、ペンキを全て拭い去ることも不可能だ。描画行為というのは、不可逆的な暴力性を理解しながらも、描画行為を選択し続けなければならない。しかし私は不可逆な暴力性を肯定したいわけではない。だから、一度身勝手にその姿を変形させられ続けた画面の上に、防犯シートを張った。防犯シートは、抗えない不幸に対して事前に向き合い、その後も生存を選択する決意を持つ人が手に取る素材だ。その防犯シートを張るということは、これまで身勝手に扱われてきた《untitled(剥奪された風景)》という絵画を、今一度守ろうとする行為である。暴力的に上塗りされ、変容を強いられたこの作品に対して、ただその上から描くのではなく、直接には触れず、あえて保護を目的とする素材という「距離」を介して描くことにしたのだ。
この防犯シートは、災害や不慮の事故から身を守るために使用される、いわば生存の意志の象徴である。その上に絵を描くという行為は、単なる装飾や再構成ではなく、不可逆的な変容を受け入れたうえで、なおも生の可能性を問い直すための選択だ。
私はこの絵の上に、かつて存在した風景を思い出しながら、直接的な“修復”ではなく、記憶と時間のフィルターを通した“再解釈”として。慎重に描画していった。その結果として生まれた画面には、《untitled(剥奪された風景)》の質感やペンキの痕跡が、背景やマチエールとして静かに息づいている。新たに描かれた風景と、かつての風景の断片が共存することで、この作品は、過去と現在が折り重なった「二重の時間」を生きることとなった。
そしてそれは、取り返しのつかない傷を負ったものに対してなおも向き合い、関係を結び直そうとする、一種の祈りのための儀式的行為に近いものであるとも言えるだろう。
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Artist
アーティスト
川島桃香の制作は、「喪失が生じた後においても、実体のない他者を愛し続けることは可能か」という問いから始まる。彼女の作品において「君」と呼ばれる存在は、もう二度と会うことはほとんど叶わない特定の個人に向けた呼称から始まり、徐々に喪失された他者全体の象徴として立ち現れる。その不在がどのように私たちの内部に留まり、変容し続けるのだろうか。川島は、記憶という不定形な存在の変貌を、絵画・インスタレーション・詩・テキストを中心とした表現によって表出することを試みる。ジャック・デリダは『アーカイブの病』において「記憶は保存の過程で本質を失う」という逆説を指摘した。この構造は川島の制作と深く結びついている。「君」を記憶・記録しようとする行為は、同時にその本質を変容させ、あるいは喪失させてしまう可能性を孕んでいる。しかし、この矛盾に向き合い続けること自体を、愛するという営みのひとつとして捉えている。また、テキスト表現においても「君」と「私」の対話や反芻の有限性を基軸に据えている。自身の言葉を絵画やインスタレーションへと変換することで、言語と非言語のあいだに生じる越境しきれなさを、「翻訳のずれ」として捉える。何度も言語と非言語を行き来することで、翻訳のずれが埋まったり、逆に広がったりする。その様が表象したい「君」の不在になるまで繰り返す。近年は記憶の中の他者を縁取るために、防炎フィルムや防犯フィルムといった半透明〜透明な支持体を選ぶことが多い。これらは生存や防御に関わる素材であり生存を選択する者が手にするものである。作品は光源の位置によって表情を変え、ひとつとして同じ姿を保たない。こうした変化は、生存を選択し続ける限り変容し続ける存在のあり方を想起させる。一方で、防炎素材の上に油彩という可燃物を重ねる技術的な矛盾は、「君」を描き続けることそのものの矛盾を映し出している。川島は、この逆説を抱えながらも「君」の不在を形にし続けている。形あるものとして留めようとすればするほど、作品は「君」そのものではなくなっていく。しかし、それでもなお、作品において「君」と名付け続けることによって、「君」を代替不可能な存在のことを信じていたいのだ。
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