不安定なバランス、いびつなぎこちない状態でバランスを保つさまざまなオブジェたち。「不安定なバランスの状況と共存する=遊ぶ」ことは、悲惨な歴史をいくつも重ねてきた人間が、生き延びるために持ち合わせているイマジネーションの豊かさを表している。
國分 郁子
アーティスト、画家
アーティスト、画家
千葉県生まれ、東京都を拠点に活動。
2008年東京藝術大学美術学部絵画科油画専攻卒業
2010年東京藝術大学大学院美術研究科修士課程修了
「地球劇場」をコンセプトに、社会、生命、時空の概念や、人間の内部で起こる心や身体の変化を、演劇的解釈に置き換え、絵画を制作している。
舞台芸術、特にコンテンポラリー・サーカスがもつ要素「空間・色彩・多文化融合・バランス・二項対立」をキーワードに、コラージュ技法を軸にして絵画に落とし込んでいる。
生物学、解剖学、パフォーミングアーツ、コンテンポラリーサーカスを研究。
主な活動に、岡本太郎現代芸術賞入選、VOCA展2020、TOKAS二国間派遣アーティスト(ケベック)2023選出など。
國分郁子は、「地球劇場」をコンセプトに、人間/生物間、あるいは生物単体そのものの内部で起こるドラマを演劇的解釈に置き換え、絵画作品を制作している。
生まれた環境や文化、慣習に縛られて生活せざるを得ない私たちの社会を既存の文様に見立て、そこから反発するように芽生える柔軟性を、さまざまなモチーフから得たイメージを用いたコラージュで、人間一個人と社会のバランスの不安定さを表現している。
彼女は、演劇的な視覚芸術への置き換えとして、コラージュ的な見せ方(意味/無意味の貼り合わせ)を軸に置いている。作品では、コラージュのために切り刻まれたさまざまな形が、奥行きの狭いステージのような空間にオブジェのように配置されている。完成された形を別の形に切り刻む行為は、國分にとって解剖である。部位から意味を取り除き、形と色の別なる可能性を見出して、古典美術や工芸、宗教美術など人類の文化史において築かれてきた様式美の一部としてそれらを再利用/再構成することは、意味や役目から解放された形そのものに、荘厳を与え直している行為である。この解剖学的コラージュは、さまざまな人種・文化を縦横無尽に組み合わせてステージを成り立たせ、その場にいるあらゆる者の存在を肯定する祝祭性によって発展してきたサーカスという構造を引用する行為であり、サーカス的な遊びと命の掛け合わせのドラマを表現しているのである。
國分の作品の特徴に、編み目のような柄が多用されている点があげられる。柄は、大量生産された加工皮、あるいは動物の皮や農作用のネットを繰り返して使用している。
これには、二つの理由がある。
一つめは、生まれた環境や文化、慣習に縛られて生活せざるを得ない私たちの社会を既存の文様に見立てている。生まれた環境や文化、慣習に縛られて生活せざるを得ない私たちは、どこへ行っても別の慣習に迎合することを強要されていることについて、知覚心理学者のジェームズ・ギブソンの言う「視覚的肌理」を引用し、「この世界はどこまでも多種多様な何かしら(大地、水、木、コンクリート、生き物など)の「肌理」が続いており、その連続する子宮の中に我々は包括されている」状況を、文様に取り囲まれている状況で視覚的にわかりやすく表現している。
二つめは、生き物の皮膚の柄が加工されコピーとして繰り返し用いられ、原型から似ていながらも離れていく過程を生物の進化、あるいは生命伝承になぞらえている。
命を落とす危険性が高い環境の中でも、遊びによって心のバランスを保ち、生き長らえてきた私たちの命の営みのあり方は、「サーカス的な命」だと國分は言う。
自然や生命をコントロールしたいという人間の欲求は科学技術の発展とともに進み続けるだろう。
だが、人類はこの慣習というパターンに取り囲まれながらも、自分なりの居やすさの工夫として、意味を求めなくても良い遊びも常にし続けているのではないだろうか。
私たちは、この時代、このコミュニティ、この場所にたまたま居合わせた人たちと、遊ぶようにバランスをとり、今この瞬間を乗り切ることで、慣習という文様を紡いでいるのです。